年中転職ばかりしているジョブホッパーは基本的にレールをはずれているために、大企業への転職は難しくなる。その結果、中小企業や零細企業への転職が多くなる。中小零細企業に勤めるメリットやデメリットは何か。転職を成功させるための秘訣を解説する。
中小零細企業とは
中小零細企業とは、大企業、大手企業、有名企業、上場企業以外の企業と規定していいだろう。
大企業とは業種によって異なるがおおむね従業員300名以上程度の大所帯の会社だ。大手企業とは業界でトップないしは2番手に位置するような優良企業のことで、有名企業とは知名度の高い企業のことである。上場企業とは、東証、札証、名証などに上場している企業である。
中小機構によると、日本における中小企業の割合は実に99.7%にのぼる。この場合の中小企業には有名企業も含まれているだろうが、どちらにせよ、日本にある会社の多くは中小企業または零細企業である。
引用:中小機構公式サイト
要するに大体みんな中小零細企業勤めのしがないサラリーマンということだ。大手企業や大企業に勤めている人は芸能人かメジャーリーガーぐらいの希少種と言っていいだろう。
私はこれまで10社の企業に勤めたが、従業員300名以上の企業に在籍したのは1社のみだ。その会社は新卒で勤めたIT企業だったが、4日間しか出勤しなかったので、勘定に入れるのもはばかられる。
有名企業にはもちろん勤めたことがない。つまり10社中9社までもが中小零細企業だったわけだ。中小零細企業勤めの申し子といって差し支えなかろう。
中小零細企業で働くメリット
中小零細企業で勤めるメリットは次のとおりだ。
- 責任のある仕事に就ける
中小零細企業に勤めると好むと好まざるとに関わらず、重要なポストに就くことになる。極端な話社長と自分だけのプロジェクトなどもある。
社長にいちいちお伺いを立てていたら仕事が進まないので、右腕である自分が率先して仕事をこなし、意思決定を下す局面もある。つまりミスったらもれなく、責任を負わされるポジションであると言える。それをやりがいと言い換えることもできる。
大企業などでは考えられない危なっかしい状況下に身をおけるのは中小零細企業ならではの醍醐味だ。
- 多岐にわたる業務に携われる
私は多くの会社で編集職として働いてきたつもりだが、今思い返してみると、全然編集者じゃかなかった。経理、営業、販売、取次への納品、お茶出し、採用など、あらゆる業務に関わった。別の会社に転職したときには、この周辺的な業務の経験や知識が役立った。
- 経験値が積み上がるスピードが早い
中小零細企業に勤めている限り、誰かに頼ってはいられない。「習うより慣れろ」だ。分からなくてもやる、聞きたいけど聞く先輩がいない、本やネットで調べて自分なりにやる、適当にやったら結構うまくいったなど当たり前の話だ。苦労した分だけ、経験値は積み上がる。
- 経営者や幹部との距離が違い
社長とランチや部長と二人三脚など当たり前だ。中小零細企業の社長でも社長は社長、部長は部長。中にはスーパービジネスマンもいる。彼等から仕事を吸収することは多い。時には不満をぶつけることで、待遇が改善されることもある。
- 自分の企画や意見が通りやすい
中小零細企業でも取引先は大企業だったりする。大企業のサイトにのせるコンテンツなどを自分主導で決めることもしばしばだ。他にいないのだから自分がやるしかない。
- 役職を手に入れやすい
昔勤めた会社は4人に1人が課長以上という役職者だらけの環境だった。私も入社してすぐに係長ぐらいに任命されるのではないかとドキドキしたものだ。結局2ヵ月で辞めたが。
中小零細企業で働くデメリット
もちろん、中小零細企業勤めにはデメリットもある。
- 教育や研修などない
中小零細企業に勤めると、基本的にはOJTだ。習うより慣れろだ。まずやってみようというスタンスだ。うまくやれれば自信につながり、失敗するとひどく傷つく。研修制度など皆無で、独学に対する手当などもない場合が多い。
- 福利厚生や手当が手薄
これが大企業との大きな違いだろう。住宅手当の有無は大きい。ランチ代の支給も馬鹿にならない。残業代が出ない零細企業はまだまだ多い。有給がとれないケースも多い。誕生日休暇やリフレッシュ休暇など、優良企業で導入されているワーク・ライフ・バランス向上の施策など、中小零細企業には関係ない。
- 健康診断すら受けさせてもらえない
私がかつて勤めていた零細企業では、ある年から健康診断が中止になった。絶望して辞職した。
- 年収が低い
これについて経験でいうと、基本的に零細企業は月収を20万円〜22万円のレンジにおさめようとする。
そして私たちジョブホッパーはそれでも入社してしまう。いや、ジョブホッパーだけではなく脛に傷を持つ求職者の多くが「20万円でもいいや」と思ってしまうのが現下の日本社会だ。絶望した!
私の20代における平均年収は多分250万円程度だったろう。絶望。
- やたら激務・もしくはやたら暇
人が少なく業務が多様で、ほとんどの場合誰にも助けてもらえず、他の社員も皆グロッキー状態の場合、仕事が多すぎてさばききれず激務に陥ることになる。残業代が出ない場合などは夜間の無報酬労働は人をむしばみ損なう。人生の損失と言っていいだろう。
リクナビやマイナビに登録したくなるのも道理だ。逆に驚くほど暇な時期があり、これはこれで会社を辞めたくなるから不思議だ。
- 経理担当者が社長の愛人
今まで勤めた9社の中小零細企業のうち、2社において、経理担当者が社長の愛人だった。愛人という身分は不思議と社内の共有事項になるから不思議だ。愛人だからといって、その人が悪い人ではなかったりする点も変な感じになる。
- 社長の身内が幅きかせすぎ
社長の愛人はなぜかひどく真面目に働き、有能だったりする半面、娘や息子、甥っ子、姪っ子はおおむね無能である。甘えが人を無能にする。尻を拭くのは周りの社員だ。身内の入社は地獄の始まりだ。
- 取引先の若手社員に舐められる
中小零細企業が下請けの場合、元請けの若手社員に舐められる。私の場合は印刷会社の若手社員や広告代理店の若手社員に不愉快な思いをさせられた。だいたいにおいて、そのような愚行を働く若手社員は、男性でイケメンと相場が決まっている。
まとめ
以上が、中小零細企業で働くメリットとデメリットだ。もし仮にまだレールを外れていないのであれば、大企業で働き続けるのが正解だ。もしまだレールに乗る前の学生で、選択肢の幅があるのなら、大企業、大手企業、有名企業、上場企業に入社すべきだ。公務員もきっといいだろう。中小零細企業勤めはタフでなくてはやっていけない。
一方、すでにレールを外れた人は引き続き中小零細企業で勤め続けるほかないだろう。ただし、中小零細企業にも優良企業がある。そして、実はけっこうある。給料がべらぼうに良かったり、人が素晴らしかったり、成長できる環境であったり、業務内容が社会的に意義深かったり、有給や福祉制度もばっちりだったり。
中小企業の割合が99.7%というのは、だいたいにおいてみんな小さな会社で細々と働いているということだ。
全就業者が年がら年中転職しているわけではない。そこには理想郷があり、その理想郷で素晴らしい上司や同僚と幸せをかみしめている会社員がごまんといるということだ。
その優良企業に入り込むために、ジョブホッパーは転職を続けているといってもいいだろう。
そんなユートピアなど存在しないと冷笑する人もあるいはあるかもしれない。私自身、10社のうちユートピアは0社だった。しかし、まだ10社だ。ユートピアから退出する勤め人は少ない。
つまりユートピアはいつも満席なのだ。空席が出たら、光の速さでその椅子を奪わなければならない。そのためにできることは、1つ。常に転職し続けること。きっと日本のあらゆる場所に私たちの知らない理想郷があるはずだ。