フリーランスにとって、もっとも安定的に収入を得られる方法が「常駐案件」である。契約期間内であれば、毎月、定期的な報酬が振り込まれる。フリーランスになりたてのITエンジニアの多くがこの常駐案件を利用している。編集者もまた常駐案件で定期的な月収を獲得できる。しかし常駐案件にはデメリットもある。私の経験談から、常駐案件の特性を解説したい。
常駐とは?メリットとデメリット
まずは、常駐とはどういうものなのか、メリットとデメリットを整理したい。
常駐には「直契約」と「仲介サービス経由」の2種類ある
常駐案件には、仕事をする会社と直接契約する場合と、仲介会社を通して働くケースの2つに分けられる。
私の例で言えば、いままで直契約1社、仲介サービス(転職エージェント)1社の合計2社で常駐案件の経験がある。
前者は、それまで細々と案件を受けていたものだがあるときに、「常駐でまとまった仕事を受けてほしい」と打診され、受諾した。後者はクラウドテックから紹介された仕事だった。
常駐のメリットは収入の安定
常駐のメリットは、なんと言っても安定した収入だろう。直契約の時には、「常駐手当」というのをもらっていた。それ以外にも、在宅でやっていたころよりも多くの仕事を振ってもらえるようになったので、収入が増えた。
クラウドテックの案件でも契約期間内には基本報酬というものが設定され、規定の時間以上働いたら満額を受け取ることができた。いずれにしても、「今月は仕事がどれぐらいあるか分からない」という不安は解消された。
常駐のデメリットは……結構ある
一方、常駐にはデメリットもある。例を挙げれば以下となる。
- ほとんど会社員と一緒なので、時間に縛られる
- 人間関係が面倒くさい
- 勤め人時代を思い出して、結構ストレスを感じる
- 孤立感・疎外感・異物感が半端ない
- すごい仕事を詰め込んでくる
- 出勤する服がない
・時間に縛られる
私の経験で言えば、常駐とはほとんど会社員である。特にリモートではなく、職場に出勤する場合、1カ月の基準労働時間が決まっているのだから、当然、朝出勤して夕方退勤することになる。通勤ラッシュに直撃するのも道理だ。常駐案件以外の仕事もある場合、時間を作るのが難しくなるケースもある。結果、夜遅くまで他の仕事に忙殺されることになる。
・人間関係がめんどくさい、ストレスが増える
人との関わりも深まる。今まで在宅で一人で働いていたときは誰とも話さないか、独り言を言いながら働いていたものが、隣に、正面に背後に人がいるのである。このストレスは耐えがたいものがあった。もちろん、出勤時に挨拶や会釈もしなくてはならない。
・仲間はずれ感がある
といって、正規に雇用されているわけではないので、おそろしいほど疎外感がある。仕事上付き合いのある人たちならば良いのだが、ほとんどの人は直接のやりとりがない。「誰?」という空気や視線を交わす精神力がないと、大きなダメージを負うことになる。
・仕事を詰め込まれる
常駐していても、始終仕事があるかと言えばそうでもない。時々手が空くことがある。これが正規雇用であれば、時間を潰すためにメールを整理したり、同僚と無意味なMTGをしたりすればいいのだが、常駐者にその技は使えない。結果、それはあんまり意味ないのでは?という仕事を振られる。私の場合編集者なので、リサーチ業務を頼まれることが多かった。そしてリサーチしたデータをまとめても、それが利用されることはほとんどなかった。私の無能さを差し引いても、これはひどい。
・服装に迷う
いままで自宅では当然部屋着で働いていた。それが外行きの服を着ていくことになる。いったい何を着ていけばいいのだろうと途方に暮れ、絶望もした。女性ならば、張り切って出勤用の衣服を新規に購入するかもしれない。あるいは最近であればレンタルも有用だろう。
しかし私たち中年男性は、為す術がない。率直に言って、無難な洋服を着ることになる。無難なら良いのだが、少しダサい服を着てしまうこともある。そうすると、一日うんざりしながら業務を行うことになる。そして次回の出勤も当然服装に迷い、エネルギーを使い、仕事中はいつも以上に風采の上がらない田吾作としてパソコンに向かうことになる。絶望が深まり、泣き出してしまう人もいるかもしれない。
今まで常駐した2社の月収
フリーランス4年目の現在までに私が常駐したのは2社だ。どういった会社で働いてきたのか、報酬や労働時間を紹介する。
1社目:Webコンテンツ制作会社
- [契約形態]直契約
- [報酬]常駐手当月額3万円含む月額30万円
- [労働時間]週4日〜5日勤務(出勤は週に1〜2回、朝11時〜16時ぐらい)
- [業務内容]コンテンツの編集、企画書作成、取材
- [就業期間]3カ月、その後在宅へ
- [総評]失敗とも成功とも言い切れない
この会社とは、以前からつながりがあった。常勤で働くことで、それまでよりも多くの報酬をもらえるという甘言につられて、契約した。率直に言って失敗だったと思う。
やはり、常駐とはほぼサラリーマンなのである。人間関係がいやだった。
といって別段いやな人はいなかった。しかし、自宅で自分のペースで働いていたものとしては、周りに人がいることや、他者との会話、呼吸や衣擦れ、カップラーメンの匂い、笑い声、椅子のきしむ音、お追従笑い、すかしっぺの臭い、トイレでの微妙な空気、屁の臭い、屁の我慢、屁の異音などすべてがストレスだった。
金額は別段不満ではなかった。他の仕事と合算して40万円から50万円は稼げていた。しかし、ある日、通勤が面倒で、業務効率が下がるから、常駐を辞めたいと申し出た。先方は受諾してくれた。それ以来、仕事量が減ったわけでもない。
結果的に、常駐を挟むことで、在宅でもまとまった仕事を受けられるようになったという意味では完全な失敗というわけではなかった。
2社目:Webコンテンツ制作会社
- [契約形態]仲介(クラウドテック)
- [報酬]月額38万円
- [労働時間]フルリモート(週5週)
- [業務内容]コンテンツの編集、企画書作成、取材
- [就業期間]3カ月、その後付き合いなし
- [総評]失敗
この会社はコロナ後だったので、フルリモートだった。業務量が多かったのと、毎月の契約時間が160時間だったので、週5回ないしはそれ以上働く必要があった。
打ち合わせなどはすべてリモートだったので、対面で同僚に会うことは一度もなかった。しかし、不思議なもので、画面越しで同僚と接するのも、私にはストレスだった。
この辺は、私の性格に問題があるような気がするが、一方でフリーランスになるとフリーランス的な性向というものができあがってしまう。端的に言って、人付き合いがおっくうになるのだ。もちろん、コンサルや営業職であれば人との接触に過大なストレスを感じないだろうが、そうではない人は少なからずフリーランス的な孤独癖のようなものがつくはずだ。
取材が多かったのも面倒だった。リモートもあれば、対面取材もあった。対面取材の場合、いちいち現場に行く時間や身支度、取材後の帰宅時間など、仕事を非効率にする要素が満載だった。
総合して言えば、やはり業務効率の低下と人間関係の煩わしさというのが、私には耐えがたいものだった。
常駐案件が見つかるサービス
私にとっては、常駐案件は「劇薬」だった。つまり、常駐ならば安定的な収入を確保できるという点では、薬の効果はあった。しかし、ストレスは確かに感じた。
両社ともに3カ月で辞めたというのがその証左だ。しかし逆に考えると、短期的に稼ぐという意味では有用性はあるだろう。
正社員ではないのだから、自分に合わなかったら契約を終えればいいのだ。これはフリーランスのメリットである。
ジョブは常にホッピングすべきである。自分の居心地のよいスタイルを見極めるためにも、常駐案件という「劇薬」を一度は飲むのも、一考に値するだろう。
もし、常駐案件を探すのであれば、エージェント(仲介会社)を利用するのが良い。案件はあるし、定期的に新規案件を提案してくれもする。面談日時の調整もやってもらえる。ITエンジニアや編集者ならば、下記2社を利用すれば良いだろう。
①クラウドテック
私の印象では、クラウドテックは案件が豊富だ。ITエンジニアはもとより、編集職の案件もある。エンジニア職の詳細は知らないが、編集職やライターの案件ならば月額40万前後のものが多いと感じた。自社メディア、受託案件両方ともある。
②レバテック
こちらも案件はそこそこある。しかしクラウドテックには量・質ともに劣るように感じている。たまたまかもしれないが、営業担当からの新規案件の提案も少ない。そして会員専用の求人検索サイトが使いづらいのも気になる。しかし求人の絶対数を確保するためにも、なるべく多くのサービスに登録しておいて損はないだろう。
まとめ
私にとって、常駐案件は半ば失敗、半ば成功と言えるだろう。つまり、2社目は失敗だったが、1社目は常駐後にもある程度の仕事を振ってもらえるようになったと言えば成功だった。
しかし注意しなくてはならないのが、もし仲介会社を利用する場合、契約終了後に直契約はできないということだ。もし、仲介会社を差し置いて直契約すると罰金が発生する場合がある。これは契約書に書いてあるので、必ず確認しておきたい。