以前までは、ジョブホッパーは労働市場において最底辺に属していた。しかし現在は違う。軽やかなホッピングにする、柔軟でポリバレントな人材として一目置かれている。私のように20代で8回転職した結果、「転職10段」に上り詰め、名誉ホッパーに昇進したケースもある。ここでは、ジョブホッパーの何が悪いのか、メリット・デメリットと解説し、可能性と限界も提示する。
「ジョブホッパー」の定義
ジョブホッパーとは20代で3回、30代までに5回程度転職をしている人を指す。しかし厳密な定義はないので、年齢によらず通算4回以上転職をしている人が該当するケースもある。逆に20代そこそこで3回程度職を変えている人もジョブホッパーと呼べないことはない。ジョブホッパーとは、仕事を転々とする人の総称である。
ジョブホッパーは一般的には、無能とされる。継続力がなく、すぐに会社を辞める無責任な人材とされる。
一方で、転職を繰り返すだけのスキルや適応力があると好意的にとらえる人もいる。
ジョブホッパーは増えているのか
本邦において、ジョブホッパーに関する統計はいまだに一つもない。なぜなら多くのジョブホッパーはそもそも経歴を詐称しており、ジョブホッパーという素性を隠しているからだ。
しかし見かけ上の統計ならばある。マイナビが転職した20代~50代の男女1,500名を対象に行った調査(2021年実施)によると、2021年時点の転職回数は以下の通りとなった。
- 1回:26.8%
- 2回:25.5%
- 3回:19.5%
- 4回:7.9%
- 5回:10.1%
- 6〜7回:4.4%
- 8〜10回:4.5%
- 11回以上:1.3%
「1回」と答えた人は年々減っており、2〜3回が増えている。「人は転職してから本当の社会人になる」とボブマーレーか村上春樹がいっていたような気がするが、けだしその通りだろう。
11回以上転職しているという人も1.3%いるのには勇気づけられる。おそらく年代が上の人材だろうが、それだけ経験値を積み、徳を積み、人生を難しくしながらもけなげにいきつつ、おっちょこちょいにもマイナビのアンケートに答えていることに好感が持てる。
先述したように、アンケートの回答者は基本的には虚偽の報告をしているはずだから、2回と答えている人は3回、3回と答えている人は4回と考えるのが自然だ。11回以上と答えている人だけは本当のことを答えているかもしれないが、そこまでいけば11回も111回も誤差の範囲だ。
要するに、ジョブホッパーは身近にいる。隣にいる人はジョブホッパーであると断定して良いだろう。同僚も上司もクライアントもみんなジョブホッパーの可能性がある。
ジョブホッパーのメリット
ジョブホッパーのメリットを3つ紹介しよう。
- 多様なキャリアによってスキルが鬼高い
- チャレンジ精神が旺盛で行動力と柔軟性がレベチ
- 顔が広くなりさまざまな業界の知識も豊富
多様なキャリアによってスキルが鬼高い
1つ目はスキルが高い点だ。さまざまな会社で多様な経験を積むことで習得したスキルに加えて、経験、対応力、絶望力、無気力、人望、サボり癖など、経歴書には書ききれない魅力がジョブホッパーにはある。
編集者でも経理のスキルがあり、データアナリストでも販売スキルがあり、土木従事者でも生産管理に精通していたりもする。
チャレンジ精神が旺盛で行動力と柔軟性がレベチ
転職とはチャレンジそのものである。今の環境から新たな環境に飛び込み、時には未経験職種にも挑戦することもある。さらに、職歴を偽って転職した場合には、嘘がばれやしないかヒヤヒヤしながら働くというスリルを味わうことになる。
結果、すさまじい集中力とその場しのぎの対応力が最大限に発揮され、ものすごいスピードで成長するという人もいる。
顔が広くなりさまざまな業界の知識も豊富
さまざまな会社で働くことで、同僚や元同僚がたくさんできる。人的ネットワークというと聞こえが良いが、実際には離職したら一度も合わない。しかしいつか「金を貸してくれ」という日が来るかもしれない。細々としたネットワークの維持は重要というわけだ。
さらに適当な転職を繰り返すと、まったく違った業界にジョブホッピングすることになる。私も、出版、調査、食品、ITなどさまざまな業界に片足を突っ込んだ。そして中途半端な知識を習得できた。ハッタリ力が養われ、薄っぺらい知ったかぶりによって胡散臭さに磨きがかかる。
ジョブホッパーのデメリット
一方、ジョブホッパーにはデメリットもある。
- 書類選考や採用面接で不利になることも
- 多方面からの信頼性の低下
- スキルの習熟度が上がらない
- 転職癖がつく
書類選考や採用面接で不利になることも
人事担当者も人の子だ。リスクをとりたがらず、安永を求める。結句、辞めなさそうな人材ばかり採用することになる。つまり転職回数の少ない人が高評価を受ける。ジョブホッパーは埒外に置かれる可能性がある。
しかし近年は転職回数は社会人の勲章と捉える向きもある。転職してからが本当の人生であり、人としての深みや奥ゆかしさが増す。これは真理である。
多方面からの信頼性の低下
どうせすぐやめんでしょと同僚に思われる可能性がある。すぐ投げ出すんでしょと指弾されることもあるだろう。たかが仕事を辞めた回数が多いだけで酷いいわれようだ。転職回数と信頼性にどんな因果関係があるのか、誰も証明していない。しかし、通説や俗説に毒された凡庸な人類がジョブホッパーを虐げる。戦争と差別の発生である。悲しい世の中になったものだ。
スキルの習熟度が上がらない
職場や業界を転々としていると、仕事内容に一貫性がなくなる。一つの技術を錬磨することなく、次の職場にホップする。結句、習熟度が上がらない。しかし、ひとところに落ち着いてもスキルが向上しない人材はいる。
要するに、やる気の問題であり、期間の問題ではないということだ。1ヵ月でも天才的に伸びる人はいる。10年いても何も学ばない人がいる。
日本企業の生産性が低いのは後者の人材が多いのが理由だ。自分こそ天才的な集中力で短期間ですぐにスキルが爆上がりすると考えているのならば、一瞬で転職するもの有りというわけだ。
転職癖がつく
ある日ふと思うことがある。「辞めるか」と。これはジョブホッパーあるあるである。理由なき転職が癖になる。一度辞めるかと思ったら、もう猪突猛進に転職する。次の職場など探さない。まず会社を辞める。話はそれからだ、というわけだ。癖はなおさらない。さらに、転職回数が増えれば増えるほど、理由なき退職が増える。不思議な習性だ。
ジョブホッパーの可能性と限界
ジョブホッパーの行動力と柔軟性には日本社会の停滞感を打破するだけのポテンシャルがある。すぐ辞める、すぐ転職する、すぐ辞めるという破壊行為の繰り返しは、クリエイティブでさえある。積極的にリスクをとることで、リターンを得るかと思いきや、あまり多くのリターンを獲得しないという謙虚さもある。それでもまたすぐに困難に立ち向かう姿勢に、人は感動を覚える。
私は36歳までに9回転職し、10社の会社に勤めた。業界や職種はばらばらだ。今はフリーランスに一時退避しているが、またサラリーマンに復帰する日もくるだろう。そしてジョブホッピングの渦の中でぐるぐると転職を繰り返すはずだ。美しい敗残者だ。収入は結局の所、そこそこに落ち着く。結局どの業界でジョブホップするかだ。収入は能力やスキルできまるのではない、業界で決まる。金のある業界にしがみつけば相応の給与が得られる。私は長く出版系に身を置いていた。そのため薄給だった。しかしIT系の会社では平均的な給与所得を得ていた。別段スキルなどなくても。だから、すべての転職者にいいたい。ジョブホッピングを恐れないで、と。転職回数など糞食らえだ。いざとなれば職歴を改ざんし、修正し、創作し、解釈を加えればいい。それの何が悪い?
もちろん、ジョブホッパーにもどん詰まりがあるのだろう。限界があるのだろう。しかいsどうだろう。ジョブホッパーの限界や末路を見た人がいるだろうか。自分こそジョブホッパーのなれの果てだと、自己紹介する人にあなたは会ったことがありますか。ないでしょう。つまり、ジョブホッパーに限界などない。ジョブホッパーよ永遠なれだ!