33歳のころ一度だけ派遣社員として、外資系の出版社に勤めたことがある。それまでは基本的に零細企業ながら正社員でしか働いたことがなかった。派遣社員になり、カルチャーショックに似た驚きや派遣ならではの不満や不安も感じた。正社員で働いてきた勤め人が、いっとき、派遣で働くことのメリットとデメリットを紹介する。
当時の状況
33歳当時、私は例によって職場を転々としていた。それまでに8社の企業に勤めていた。おおむね出版社や編プロのような企業で、よくわからないまま編集者まがいの職務に従事していた。
それまで、出版関係以外にも調査会社や食品関連会社でも働いてきた。しかし、「まあ今後も編集の仕事をするのでいいかな」、という適当な将来展望を抱いていた。
これからは紙媒体だけでなくウェブ媒体のほうにも、適応しなければならない。となれば、ウェブ関連の知識やスキルも習得する必要があると考えて、一念発起して夜間のスクールに通うことにした。
期間は9カ月。その間は、日中は残業がなく、業務負荷も低い、派遣社員として働くことに決めた。派遣社員として働くのはこのときがはじめてだった。
派遣社員になることの不安と杞憂
正社員から派遣になることに対して、不安を感じている人は多いだろう。
特に、派遣から正社員へ戻る予定の人はなおさらだ。いったん派遣社員になったら、経歴書に傷がつく、面接官に悪い印象を持たれるのではないか、と懸念する人もいるだろう。
しかし私に関して言えば、なんの問題もなかった。むしろ、いったん派遣を挟むというのは有意義だ。内定をもらうことも比較的簡単だった。
順を追って説明したい。
派遣先は外資系出版社で快適な職場環境だった
勤めた会社は外資系出版社。職務内容は事務。いままで事務として働いたことはなかったが、零細企業勤めだったので、経理回りや販売系、データ入力や顧客管理もこなしてきた。その経験が生きたので、派遣社員としてもおおむね問題なく働けた。
社員数は200名ぐらいと、中堅規模の企業だったが、外資系ということもあり、職場は綺麗で、備品などももちろんきちんと揃っていて、職場環境は良好だった。
会社が入っているビルも比較的新しく、私がいままで勤めてきた会社が入るような雑居ビルやペンシルビルの不潔さや狭さなどとは無縁の職場だった。
いままでは編集や校正、取材やライティング業務に従事してきたが、派遣社員にそのような重要な(?)仕事が任されることはなく、毎日、少量のデータ入力や資料の整理などを、だらだらと行うような素敵な環境だった。
責任もなければ、派遣先からの期待もない。終業後にはある程度気力や体力が残る状態だったので、夜のウェブスクールも何の問題もなく通学できた。
派遣のメリット15選
正社員から派遣社員として勤める場合、多くのメリットを享受できる。もちろん、派遣社員がメインの人にとっても、このメリットは同様だ。具体的なメリットは次の通りだ。
- 残業がない
- 責任が軽い
- 仕事がラク
- 誰にも期待されていない
- 不満があれば派遣会社に連絡すればよい
- 中堅大企業で働ける
- 職場環境が良い
- トイレが綺麗
- トイレ掃除をしなくて良い
- 執務空間が広い
- パソコンがハイスペック
- たくさん印刷しても怒られない
- 備品が使い放題
- 元請けなので、下請けのつらさから解放される
- 有給が使いやすい
派遣のデメリット
むろん、デメリットもある。私にとっては初の派遣社員だったので、勤めてみてはじめて気がついたこともあった。
- 給料が安い(時給は1600円で月給は23万円程度だった)
- 交通費がでない
- 休むと無給になる
- 半休でも給料的には大打撃
- 福利厚生が貧弱
- 派遣社員というコンプレックス(見下されているように感じた)
派遣を経て、正社員に戻ることについて
上述のように派遣社員にはメリットとデメリットがある。もし、なにかの理由があって、いっときだけ派遣社員になり、すぐに正社員に戻るつもりなら、メリットのほうが多いと感じた。
中堅企業の内情が少しわかった
派遣で勤めた9ヶ月間でわかったのは、外資や中堅企業に勤めているからといって、社員が全員優秀というわけではないと言うことだ。彼等は極端な分業制のなかで働いているので、自分の領分以外の仕事については無知だった。
一方私は中小零細企業で働いてきたので、良くも悪くもさまざまな仕事に従事してきた。編集的な仕事だけでなく、販売や広告営業、経理など。そういった経験はとても生きた。
もちろん彼等はスペシャリストとしての能力は高かったのだろう。また負っている責任も段違いだ。どちらがいいか悪いかは措くとして、零細企業勤めのジョブホッパーだからといって彼等に対して劣等感を必要以上に感じる必要はない。
派遣で働いたことは職務経歴書の汚点になるか
いままでずっと正社員で働いてきた人が、派遣で就業することで、経歴に傷がつくかと言えばそんなことは全然ない。
派遣就業後に、いくつかの面接を受けた。従前に不安に感じた、「派遣からの転職」という点については完全に杞憂に終わった。面接官は誰も気にしていなかった。
特に私の場合はその期間にウェブのスキルを学ぶためにスクールに通っていたので、前向きな9ヶ月間としてとらえてもらったようだ。ちなみに、ウェブの学校ではイラレやフォトショなどを学んだが、その後このスキルが役立つことはなかった。悲しい話だ。
派遣後の転職活動では5社の内定を得た
いままで正社員として働いていたとき、私は年がら年中転職活動をしていた。
そのときは、1社内定を得るのも一苦労で、仕事がきまっても、大体待遇が低く、別段楽しい仕事でもなく、同僚は皆疲れ切り、元気な者は自分より職位の低い人の頭を叩くことでプレゼンスを発揮する、素敵な会社ばかりだった。
しかし派遣を終えた後の転職活動では、5社の内定を得た。
うまくいった理由は、これまでの「出版社」「編プロ」路線から、ネット企業への方針転換が挙げられる。
つまり、ネット企業にはあまり習練を積んだ編集者がいない時代だったというわけだ。これは2015年のことだが、2021年現在もこの状況はそこまで変わっていない。
ある程度の編集スキルがあれば、ネット企業や一般企業のコンテンツ制作部からは評価される。「編集経験がおありなのですね、すげー」みたいな。
まとめ
子育てや介護、その他の事由で派遣やパート、契約社員として働くことを望む人は多いだろう。時短で働く人にも相応の理由があるはずだ。
一方で、「正社員から派遣へ、そして正社員へ復帰」という人もいるはずだ。そういう人は派遣になることに不安を感じているかもしれない。しかしここで見てきたように、派遣であろうと、なんだろうと、企業はそこまで気にしていない。問題はどんなスキルを持っているのか、どんなスキルを習得したのかだ。
転職を繰り返して、ある日突然私のように突然スクールに通い始めても、何ら問題ない。自分はたいした能力がないと考えている人も、スキルの棚卸しをすると、結構有用な能力を保持していたりもする。足りなければ独学やスクール通いで、補強すればよい。
面接先の企業がどのような人材を求めているのか、自分の強みは何なのか。双方の思惑がマッチすれば、転職は必ずうまくいくはずだ。