フリーランスはクライアントから報酬の減額を提案されたらどうすればいいのだろうか。答えはシンプルだ。甘受する。そして、むせび泣く。さもなくば死を。
報酬が月額10万円から5万円へ減額
半年前から受けているライティング案件について、エージェントのA社からメールが来た。
「5月から現状の10万円(税抜、月額)の報酬を5万円(同)にしてくれないか、とクライアントから提案されている。どう?」
もちろん、実際にはもう少し丁寧な文面だった。しかし文章がどうであれ、この提案は冷酷だった。
こちらにいくばくかの拒否権のようなものがあるようなニュアンスを出しつつ、現実的にはこちらに拒否権や選択肢などない。
受諾するか、さもなくば死だ。
死のうと思った。しかし、死ぬのは止めた。なぜなら死にたくなかったからだ。
「10万円は死守してくれないか? もし君がフリーランスの立場に立ってものを考えられる優しさとまっとうなおつむがあれば」
というようなことを言ってもよかったかもしれない。しかし、私のような鼻くそみたいな自営業者が、そのようなことを言った場合、なけなしの5万円の報酬すら霧消することになる。
だから、結句、「5万円でも首切りになるよりはよござんす」というようなことを平身低頭しながらキーボード入力して、メール送信した。
それが金曜の夜のことだ。いまは土曜の夜。かれこれ24時間連続で泣いている。寝ずに、食べずに、糞も放屁もせずに。
涙を流しすぎて、脱水症状になりつつあった。それは流石に生命にかかわるので、途中から涙をそのまま飲水して、今に至る。
月収が……
週明けに、エージェントから回答がくるだろう。といって、結果は自明だ。月額5万円になるはずだ。
実は今年1月に月額30万円(税込)の案件が終わった。これは痛かった。傷心してそのまま就職活動をはじめようかと思ったほどだ。
しかし、自営業歴5年の私が軽い気持ちで復帰できるほど、サラリーマン社会はあまくない。自営業者は自堕落だ。社会不適合者だ。いつも自宅で屁をこいているか、鼻をほじっている。
一方で、会社員は才能のかたまりだ。厳しい社会で耐え忍びながら、勤勉に働いたり、勤勉に働いているふりをすることをいとわない。すべての会社員は天才といって差し支えないだろう。
会社員からフリーランスになるのは簡単だ。私のようなおっちょこちょいな人間なら、後先考えずに二秒で実行できる。
しかし逆は困難だ。フリーランスから会社員への復帰は至難の業だ。今となってはいったいどのような転職サイトに登録すれば良いのか検討もつかない。
ハローワークは二年前に全拠点が爆発したと、友人の田島君が言っていた。おそろしい世の中になったものだ。会社社会との接点が見つからない。サラリーマンに戻るのは無理だろう。
減額されそうな企業にchatGPTで復讐を
月額10万円が5万円になるのは痛い。これまでまともに取り組んできたと思っていたが、相手の評価は決して高くなかったのかもしれない。あるいは、社内で組織変更があったのかもしれない。クライアント企業の経営が傾いているのかもしれない。理由は分からないが、外注スタッフにかかるコストを削減するという意思決定は覆らないだろう。
受けている仕事はライティングで、SEO記事の作成のような業務だ。はっきり言って、つまらない。やりたくないが背に腹はかえられない。子どもはまだ1才だ。収入を得なければ、養うこともできない。いや、家内は4月には職場復帰するはずだ。となれば、私は働かなくても……。
女性が活躍する社会の構築を目指しているという、男女の性別役割分担という旧来の価値観を取っ払うことが目指されているという、男性が積極的に育児を行う社会が理想であるという──。
そうなればいいと思うが、実際にはそのような社会はこないだろう。ここでいうそのような社会とは私(男)が働かなくてもよい社会のことだ。私は働かない、妻が働く。
無駄な夢想は止して、働こう。5万円のために働こう。いまはまだ10万円だが、考えると無性に腹が立つ。
今日、当該企業に1本記事を納品した。構成案は相手からもらっていた。関連記事を調べてライティングするだけの簡単な仕事だ。これがchatGPTに頼めばさらにスピーディーに片付けられる。
実際chatGPTに構成案を投げて、回答を得た。ほぼそのまま記事として納品できそうだった。でもしなかった。道義的な問題があるような気がした。またGPT君の回答はそのまま流用するにはやや内容が薄かった。
しかし若干の加筆修正でまあまあのクオリティに仕上げることはできそうだった。で、した。ほぼ。
これまでよりも、記事作成にかかる時間を1時間ほど短縮できた。怒りのAI活用だ。5万円も減額されるのだ。自営業者にとっては死の宣告と言える。5万円分は働く。しかし、カットされた5万円の恨みは晴らさせてもらう。
chatGPTを相棒に、SEO記事制作の効率化を図る。chatGPTは有能だ。SEO記事のライターは全員退場だ。私ももう、ほぼ消えている。